JA7SSB 齋藤OMは2008年(平成20年)12月2日永眠されました.(享年77歳)
謹んでOMのご冥福をお祈り申し上げます.
このコラムはOM思い出の一部として引き続き掲載させていただくことにしました.

在りし日の齋藤OM (2005-11頃)

記) 事務局 JE1TRV


INDEX
第1回:上手になれる人と成れない人はどう違うの?
第2回: 人と道具
第3回: 電信て巧く成れるもの?

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【第1回】 上手になる人と成れない人はどう違うの? JA7SSB

私は自動車の運転をしている時にいつも昔読んだ本に書いてあった事を思い
出します。そこには[大きい車でも小さい車にも関わり無く,威風堂々と走る
人と、チョコマカと走る人がある。其の差はナンだろう?多分それを上手と下手
と云うのだろう。]という書き出しに始まるものだった。確かに上手な運転と
下手な運転がある。単に経験の長さでなく、何時までたっても或るレベルか
ら上に上がらない人があるのだ。そういう人にそれとなく聞くと、運転を上手
になろうと思ってない、動けばイイじゃない!という方が多い。成る程、目的
を達すれば運転の上手下手は自分には関係ないかもしれない。しかし、運転し
ている其の車を見たり、感じたりしている運転者は何百台も居るということな
のだ。アマチュア無線のオペレーションもそうだと思う。話してる当事者は二
人か、ラゥンドQSOしている数人かもしれないが、その周波数をワッチする人
の数は遥かに多く皆に聞かれている事を忘れているのではあるまいか?

上手になろう!と絶えず思いながら技法を考え、改善していこうと思うか、思
わないか?が大切に成る。運転なら道の真ん中をヨロヨロせずに直進する、カ
ーブもセンターラインから同じ隔たりで曲がってみせる、当てハンドルも過大
にならずピタリで当てていく‐‐ことを意識して御覧、貴方は日一日と上手に
成るはずである。
トンツーも同じであろう。普通に交信したい時にマサカ貴方はコンテストに参
加していた時の符号スピードでCQを出さないだろう。お調子にのったカッコよ
さ(?)で、ペデションの真似をしてUR 5NN, Op Jun VK。と叩いて御覧!
アイツ、何様のつもり?と誰も返事はしてくれない筈である。
上手くなりたいと思ったら、自分が初心者の時に困ったことは何か? それを
克服するために何をしたか?を思い出してみると良い。大体モールスのQSOは
不得手な英語で始まるから、最小限次の幾つかを確実に送ることから始めるの
が必要ではないだろうか‐‐
@スペースを確実に判りやすく挿入する。すこし長めに長めに入れること
A符号のスピードを同じにする。(早くしたり遅くしたりしない、スペースを
短くすると下手な人は早い符号速度に聞き取る‐‐ファーズワースの符号練習
をした人なら判るはずだ! 結局スペースを同じに入れる練習とも言い換えれ
る)

この二つで随分とウマク聞えるようになることをご存じない方が多いのだ。聞
き取り練習は皆さん一生懸命にするけれども、送り出しは自己流の方が多すぎる。
‐‐と私は思う。 巧くなりたい人‐‐成ろうと思う人だけが上手になれるということだ。私など モールス符号は小学校3年生から習っているが、本当に巧くなったのはキット 極最近のことだと思う。それでも私のホレがまだ、英文の域に達しないのはホ レの不得意な符号が2つ残っているために、其の字の寸前にスペースが変化する 為だとわかっている。   齋藤醇爾/JA7SSB  4月13日

【第2回】 人と道具 JA7SSB

古代人が石器を使用した時代、人類最初の道具は約10-20万年くらい前から使われ
ていたと思われている。人類が色々な知識を留めるために文字の発明もあったけれ
どもこれも道具を必要とした。今日人類は道具(tool)を使用せずには何も出来ない。
人類の経験学習から道具が、次第に改善されたり発明されて、良くなると言うこと
も事実である。野球のバット、グローヴもそうだし、音楽家の使用する楽器もそうだ。
ゴルフのクラヴなどはスコットランドで初めて使われたものから今日のチタンヘッド
とカーボンシャフトのつくりとを比較したらマッタク飛距離が3倍以上も違うと言う。
オリンピックの競技種目でも短距離のスパィクシューズから、棒高跳びのポール、
水泳の水着に至るまでHi-テクぞろいである。人は如何に道具を使いこなすかで能力
を高めて来たともいえる。これは非力な人には大きな助けであり、高い能力をもつ
人間にはより素晴らしい記録を生む事になった。

アマチュア無線でも同じ事なのだ。受信機、送信機、アンテナ、マイク、スピーカー、
電鍵、アンテナを比較してみてもわかる。ところが最近になって古いものへの回帰
で楽しもうというオアソビが見られる‐‐例えばアンティークな1930年代のセット
や真空管を使用して電波を出したり、古いCWやAMモードで交信して楽しむハムがい
らっしゃる。これなどは、ゴルフのクラヴをわざとメタルシャフトの重いヘッドに
替えて振り回し、スイングの基本を学ぼう‐‐というのと似ている。道具に使われる
前に、道具を真に使いこなす技法の練習の為にに古い道具を使用しているのだ。

今日の受信機などは30年前のものと比較したら、月とスッポン以上の開きがあるのだが、
古い、帯域の広いHRO-7とか、AR-88とか、SX-73で聞いてみると判る。あのノイズの中
から3つか4つの似たような強度の信号のモールス符号を耳の訓練だけで、QRMの中から
区別して聞き取ることが出来る人は、現代のYMには決して理解してもらえないだろう。
そうした聞き取り訓練をした人が現在の受信機を使用したらナンと楽に聞えることかと
思うだろう。言い換えると現代の人は道具に助けられてあたかも技量が上がったかの
錯覚に捕われている事が非常に多いのだ。

「古きを訪ねて新らしきを知る!」という。新しい道具の中に囲まれて、自分は何でも
出来ると思っている人が沢山いる。しかし実際は道具を考案し工夫した人の能力に助け
られて、能力が向上したと信じているに過ぎないかもしれない。今時の電信(モールス
符号)の送出などは、貴方の技量ではないのかもしれないのだ。しかし聞き取りは何時
までたっても貴方の耳と頭脳によっている--。時に古い道具を使用できるかどうか、を
己の訓練の為に試みるのは良い勉強になるだろう。そうする事で新しい道具が如何に精
細に作られているのかも理解できる。そうしたら埃だらけの錆の浮いたパドルをキチン
と手入れをするようになるだろう。錆こけたバグキィや、パドル、トランシーバーも
キチンと手入れして欲しいと思う。まさか汚れている汚いのが年月と歴史を語るなどと
はいえない筈だから Hi!

齋藤醇爾/JA7SSB
2001.6.13.


【第3回】 電信って巧く成れるもの? JA7SSB

誰もが作業をするときに、人より上手にしたいと願わない方は無いだろう。
中にはいやいや作業をする方も居るが、趣味ですることなら嫌なことはな
い筈だから各人で様々な方法で上達しようとしている筈である。

それでも、たかがモールス符号の送り出し、受け方にも千差万別があるの
に気がつく。何故だろう? 

実はこれは模範になる標準が意外と無いと言うことが大きな原因だろう。
2000年でモールス符号による通信は公式な無線局業務から無くなってしま
ったから受信機を聞いてみてもメッタに聞けない。アマチュアバンドでか
ろうじて聞こえるだけである。今後はますます規範的なモールス符号を聞
くことは困難になって行くはずである。

私達は有志でアマチュア無線家の為に、モールス符号の練習局を設定して、
この満6年間、毎週の月水金の21時からVHFのF2で30分間、練習文を送信し
続けてきた。ここで使用している機器は、MM-3というコンピューターでメ
モリィを持つキィヤーを使用している。この機器はASCIIコードを英文の
モールス符号に変換しながらストアーできる他に、ウェイトも自由に変化
出来る優れものである。勿論手送りのスクィーズキィ・モードでもストァ
できるが、さらにPARISコードによる送り出し速度(w.p.m)をコンピュータ
ー・クロックで正確に校正できるのだ。

この符号を少しでも多くの方に聞いていただけるように実に6年以上も欠か
すことなく送信してきた。難しく考えないでボヤーッと聞いているうちに
ある日突然に判りだした!という方もいらっしゃる。赤ちゃんが言葉を覚
える時に、苦痛を感じて覚えているのではナイだろうが、あの覚え方こそ
理想的なのではないだろうか。F2で送信しているのは、多くの方がハンデ
ィのFM/VHFのトランシーバーしか持ってないことが上げられる。
機械が送り出す符号だから綺麗だというつもりはない。例えば発信の周波数
の設定、ウェイトの設定、ワードスペースの取り方などは人間が決めるもの
である。現在音調は800Hz、短点は10%長く、ワードスペースは20%長くし
て送信している。
この符合を聞いているうちに、HF帯でのCWの同調が自然に800Hzになり、自
分の送り出す符号の速度がわかる様になるだろう。

練習と言うのは模範になるものが無ければ上達しない。人間は最初に真似か
ら全てを習得する‐‐そしてやがてそれを超えてから自分の物が出せる様に
なる。良き師、良き友に恵まれる人が進歩するのは、どの分野でも同じであ
ろう。更には己を切磋琢磨する意思を持ち続けない限り何事も上手になる事
はない。大人になると社会を生き抜くツマラナイ知恵が発達して、モールス
符号が巧くなってナニにナル!という態度をともすれば持ちがちだ。
巧みになるということは、大人の知恵を捨てることかもしれない。

齋藤醇爾/JA7SSB 2001年8月21日